ものがたりが始まる

今日の成瀬望

「ジパング少年」 15歳の時に衝撃を受けたマンガ




















ジパング少年 いわしげ孝著 小学館
1980年代末から90年代初頭まで
ビッグコミックスピリッツにて連載されていたマンガです。


中学三年のとき、親戚の兄ちゃんに勧められて借りて読みました。


マンガの舞台は、「管理教育」つまり校則が異様に厳しい学校です。
学校に管理されることに反発した主人公が、
校則を破ったり、校則反対運動をしたり、
不良グループと闘ったり、学園祭ジャックをしたりと、
最初は学園ドラマ風に物語が進行していきます。


しかし5巻、6巻あたりで、
いくら先生に反発しようが、
世の中が何も変わらないことに気づいた主人公が、
「新しい学校を創る」ために、高校を中退し、
資金を得るため南米へ金(きん)を掘りに行くところから、
物語が学園ドラマから南米を舞台にした冒険物語へと、
大きく切り替わります。
この展開の切り替わりの激しさに、
初めて読んだ当時は、かなり衝撃を受けました。


僕がこのマンガを読んだ90年代末は、
ゆとり教育にシフトしていた時代だったので、
学校の管理教育の設定に対して、
もうあまり現実感を感じられませんでしたが、主人公達の
縛られることに反発する気持ちだけは理解できました。


100人いれば100の顔があり、100通りの幸せがあるのを、
先生達は同じ方向を向けと強制するんだ。


中3で高校受験を控えていた僕は、
なんとなく成績にあった学校を受験、
高校から大学に行って会社に就職という、
「見えないレール」を進路指導や友達を通じて
感じているときに、この主人公に烈しく共感しました。


自分はどんな人生を歩もうか、本気で考えると、
答えは簡単に出ない。
だからといって、普通科の高校に行くよりも、
もっとおもしろい進路があるんじゃないか。


日々の態度が内申点に響くといったことが
わかったとたん、授業中に今までほとんど挙がらなかった手が、
ほとんどクラス全員挙がるようになったことも、
なんとなく気味悪く思っていました。


その後、中学3年の夏。
親に無理矢理勧められて入った塾で、
おもしろいように成績が上がったことで、
僕の考えは変わりました。
「受検はスポーツ」だと思うことにしたのです。


俺も日本人だもの、一度ぐらい国民的人気スポーツに
参加しなくちゃなと。


でも隠れたホントの理由は、

「一緒にがんばろうね♪」

と当時好きだった女の子に言われて、
勉強の教え合いをしたり、
一緒に励まし合ったりすることが楽しかったことです。


「生きたいように生きなきゃよ。生きたいように・・・・・」


主人公柴田ハル達のことを考えながら、
僕は全力で高校受験の勉強をしました。


日本は豊かだけど、豊かじゃないってどういうことだろう?


自分の頭できちんと考えずに、自分の進路を決めて、
幸せにホントになれるのかな?


本当に僕の人生で最初に、
「偉大な質問」を投げかけてくれたのは、
このマンガだったと思います。


その後、このマンガがきっかけで、
星野道夫の本や「リトル・トリー」などを読みました。



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ジパング少年名言集

4巻より


ととら:退学になってもいいの?

ハル:よかねえよ。正直・・・少しは怖いもんな・・・・・・
   けどさ ととら・・・・・
   そんために、自分の根っこにあるなにかをゴマかすと・・・
   なんつうか・・・
   自分で自分を信じらんなくなる気がすんだよな。
   それが一番・・・怖い。
   自分を好きでいたいもん俺・・・・


城山騎一郎:人間は、自分の望む一番近いものになれるはずじゃからな。



ハル:俺さ、人の死ぬのって初めて見たんだ。
   なんか・・・・よくわかんないんだよな、あっけな過ぎて・・・・
   (中略)
   俺達息してるってだけで・・・生きてるって、ただそんだけで・・・
   なんかものすげえことなんだぜ!バカかなァ俺・・・・・・

   やけで言うんじゃねえけど、人なんてこんだけのもんなら、
   生きたいように生きなきゃよ。生きたいように・・・・・


ハルの父さん:とにかく父さんがパリやニューヨークを思う時ってのは、
       たいてい、夜の酒飲んでる時でな・・・
       そういう時ってどんな現実離れしたことでも、
       可能に思えてくるんだよ。
       それが昼 冷静に考えると、なんかとんでもない・・・
       ただ熱に浮かされた思い込みだけのような気がしてさ。

       でもなァ ハル・・・
       この年になっても時々、夢見るよ。
       あの頃、もし熱に浮かされたまま 生きてたら、
       また別の人生があったんだろうなって・・・・・・


5巻より


シスター:退学してから、いったいどうする気なのでーす?

かんな:友達と一緒に南アメリカへ。

シスター:・・・・・・ 一度きりの人生なんですよ、後悔しませんか?

かんな:後悔しません。一度きりだから!


6巻より


ととら:本の学校っていうより、日本全体の印象なんだけど・・・・・・
    本当にジパングなんだなって思った。

    黄金の宮殿こそなかったけど、国も人もホンっト裕福で・・・
    失業率も進学率もペルーに比べれば、
考えられないくらい恵まれてて・・・
    だって貧乏自慢が、シャレで流行ったりするんだもン。
    でも・・・なぜかみんな、なにかに追いたてられ・・・
    一方、それとは逆にギスギスした退屈にあふれてて・・・・・・


    うまく言葉に乗せられないんだけど、そう感じたんです。
    ここって病気だなって・・・ぜい肉だらけの・・・
    そういう意味でもここはジパング(黄金の国)なんだって・・・

    当たり前のことを言うようで、恥ずかしいんだけど・・・
    人の幸福って、文明やお金だけじゃないんだってこと・・・
    日本へ来て、初めて実感しました。


ハル:俺やだったもんなァ〜〜 息がつまりそうだった。
   うまく言えねえけど、西浜のあのやな感じだけが、
   これからの俺の手掛かりなんだ!
   陸上も大学もやめてまで飛び出した自分を、
   俺は信じてやりたいね!
   なんか えれえカッコつけちまったけど・・・
   ホントは管理のテーギも自由の意味も、どーでもいいんだ。
   自分のことは、自分で決めたいって・・・・・・
   ただそんだけだもん。


7巻より


かんな:受検→いい学校→いい会社→いい結婚→リッチな暮らし
    →しあわせのステイタスってパターンがあるじゃない。

    でもさ、いつか柴田ハル言ってたように、
    100人いれば100の顔があって、
    当然100の幸せがあるわけでしょ。
    どうして日本人って他人と同じ価値観に
    怯えたように追われるのかね?


11巻より


かんな:アタシ死なないよ。ようやく生きる根っ子が見えてきたもん・・・
    ねぇ、柴田ハル・・・生きる原型ってこういうことよね・・・
    日本って・・・大きくなり過ぎた樹・・・
    アタシ達はその樹の一番上で
    根っ子を見れないまま変形した枝や葉でね・・・
    でも、変形の成長も限界・・・余分な枝葉バッサリ落として
    幹だけになって、ダサイ根っ子のあることを
    そろそろ意識しなくちゃ・・・食べて寝て・・・恋して働いて・・・
    そういうとこから全部を始めたい・・・
    そういうふうにしあわせになりたいもん・・・
    わかる・・・?


ハル:俺、ここで・・・日本が失くした何かを・・・
   見えなくなった根っ子を見てえんだ!
   同じモンゴロイドの築いたもう一つの“日本”を・・・
   俺は見てみたいんだ!


12巻より


かんな:いかだを漕ぎながら、アタシずっと考えてたよ、
    闇ってホントに真っ黒なんだよね。ペルーへ来て初めて知った・・・

ハル:東京の夜にゃ闇なんてなかったもんな。

かんな:心底怖いよ、この黒・・・大昔の人が火を大事にしてたわけ、
    今ならわかる気がするもん。

ハル:もしかしてよ、昔から人を動かしてきたもんって
   恐怖なんかもしんねえな。
   俺、不思議だったんだ。昔の人間って、
   なんで太陽や月や山を信仰したり、見たことねえ神様を
   作ったりしたんだろうって・・・けど、今ならわかるもんな。
   人間の力なんてどうしようもねえ。

かんな:聖なる力って・・・きっとあるんだよ。


13巻より


ガルシア:豊かさで・・・人はしあわせに・・・なるか?
     お前の国・・・ニホン・・・しあわせか?

麻美:何言ってんだか、しあわせに決まってんじゃなーい!
   いいぃ?便利、快適、安全、健康・・・
   なんだって豊かさがもたらしてくれるじゃん。

ガルシア:俺、見た・・・ニホン・・・そう見えなかった・・・
     はりついた無表情・・・痴呆の笑顔と・・・孤独だけだった・・・
     俺達・・・外国人が孤独なんじゃない。日本人がだ。
     インカの村・・・自給自足・・・電気も水道もない・・・
     村人 いつも天災におびえ・・・そして・・・貧しい・・・けど・・・
     収穫の日の祭りの笑顔だけは、ニホンの誰よりも
     心からしあわせな笑顔・・・
     その笑顔のためだけにまた一年を過ごせる・・・
     人間・・・一番怖いの欲・・・欲は聖なるものを踏みにじり、
     そして・・・欲に根ざした進歩や文明・・・人、
     しあわせにはならない・・・


15巻より


ハル:哀調を帯びた竹笛の曲・・・
   子守唄代わりのばあさんの昔話・・・
   なつかしい・・・なんもかもがなつかしい、
   みかん色に染まる夕暮色・・・
   このモンゴロイド達の地で・・・俺は何を見てえんだろ?
   いったい何を確かめてえんだろ?
   また、遠くあてのない旅・・・
   血のざわめきの奥のなつかしさだけを信じて・・・


藤:ここにゃ日本の失くした何か・・・日本以上に日本らしい・・・
  いやいや、そんなありきたりな言葉じゃねえな・・・
  もっと別な・・・疑いようのねえ変わらねえ営みつうかさ・・・
  こお・・・空気が確かなんだよな。モンゴロイド達の空気がよ。


ハル:ゼロだ・・・

かんな:ゼロ・・・?

ハル:黄金でも・・・ビトコスでも・・・幻の日本でも、
   ユートピアでもない・・・
   俺が求めていたのはこの0(ゼロ)の実感だったんだ!


ハル:なんつうか・・・感覚なんだよな。
   お前らだって覚えあっだろ?
   日本にいて感じる独特の不安感・・・

かんな:アタシもあった。自分が何をやりたいのかすらわからずに、
    夢さえもどっかうつろでそらぞらしく思える不安。

ハル:結局よ・・・ゼロを見ることなく百や千から
   始まらされてたんじゃないかな、俺達・・・
   気がついたらいきなり百の場所に立ってんだ。

かんな:うん、しかもその先きっちりレールが敷かれててね・・・
    原点の必要ない応用とアレンジばっかり・・・・

ハル:俺は、どうしてもゼロから始めたかったんだ。
   それが今日やっとつかめた気がする。




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