ものがたりが始まる

成瀬望の「八百屋barものがたり」と鹿野暮らし通信

「遺言」岡田斗司夫の“ヒリヒリ感”と父性の仕事物語

「遺言」岡田斗司夫 筑摩書房

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エヴァンゲリオンを作ったアニメ会社ガイナックスの創業者、
岡田斗司夫さんがアニメ作り、創作の秘話を一挙に語った本。
去年出た本で、このあいだ読了しました。

岡田斗司夫ガイナックスの創作の方法は、
現実の自分達の立場から来る“想い”を作品に反映して
ストーリーを作っていくというやり方。

“想い”は作品のテーマであり、設計図の基となるもので、
作品を観ている人には見えないし関係ないことだけど、
それによって作品の一貫性が保たれるのだそうです。

そういう作り方をすると、
燃え尽きるほど作品作りという仕事に没頭するのもわかりますし、
燃え尽きるほど作品と一緒に作った仲間に惚れ込むのもわかります。
とても厚くて熱いこの本は、
燃え尽きるほど働いた人にしか語れない内容になっています。

なぜ「燃え尽きるほど」というフレーズを僕が何度も使うのかは、
この本を読んでみれば、あるいは
自分が本当に熱中して少しでも何かを
周りの人を巻き込んでやったことのある人にはわかると思います。

自分の想いが強ければ強いほど、
本気であればあるほど、
つらくなったり大変になることが世の中増える。
でも、その分、良いものが出来る。

僕はそういう、すごいものが出来上がっていくことに興奮する意味でも、
同時にいろんな周囲や自分との葛藤の中で“すり傷”が出来て痛い意味でも、
2つの意味でヒリヒリした感覚のこの本に、共感を覚えました。

本の中で、岡田斗司夫さんは、
エデンの園で知恵の身を食べた人間は、
隠すこと、嘘をつくことを覚えて神に追放された。
でも人間は今も、小説や映画で、愛や友情、奇跡なんて嘘の話を作り、
それに励まされ感動しながら生きている」
そのことを不思議に思うと言っています。
そして万能のひとりぼっちの神さまは、
きっと人間の世界を映画やドラマを観るように、
宇宙の果てから楽しんで観ているんじゃないかと。

子供や若い人の観るすべての作品は
「この世界でOK」「大丈夫だよ」という嘘で
終わるべきだ。という岡田斗司夫さんの信条に、
僕は父性と男気と、なぜかすこしの切なさを感じました。

 僕たちの世界は大きくて複雑すぎる。個人が受けとめて解釈するには、あまりに多様すぎるし、その歴史も学んでいるうちにどんどん「知らなければいけないコト」が増える一方です。
 だから僕たちは世界を「物語」でしか受けとめられない。世界を、自分の語れる「セカイ」にしないと生きていけないんです。
 「わたしとは何か?」とは、自分の人生にテーマを見つけること。
 そのテーマは誰もが納得する「事実」ではないでしょう。でもあなたにとって「わたしだけの物語」なのです。
 「わたし」と「セカイ」の物語。それが人生のテーマです。
(P.375)

この言葉は、かみしめるように何度も味わいたい言葉だと思いました。


あと、この文章の流れと合っていませんが、
インタビューは面白い話を引き出そうとするのではなく、
相手と自分の関係が面白くなるようにすると上手くいく。
という岡田流インタビュー術も、印象に残りました。

熱くて厚いけど、読みやすい本です。
創作の秘密だけでなく、
チームワーク・組織、アニメ会社創業・経営についても
たくさんのエピソードがあるので、
ビジネス書が好きな人、ノンフィクションが好きな人でも、
楽しんで読めると思います。
読了後、明るい気分になります。(さすが一貫しています)


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