ものがたりが始まる

今日の成瀬望

映画「コクリコ坂から」の感想。


1960年代前半。東京オリンピックが始まる前の日本が舞台。
チェーン店、ファーストフード店はまだなく、
食や環境の問題はまだ起きていない。
町は個人商店ばかりで、おおらか、
良い意味で“社会のすきま”を感じる。

パソコンもケータイもないけど、車や冷蔵庫、洗濯機、テレビは
普及している程度に世の中は便利になっている。

漁師や農家もまだ元気な時代。
都市も地方も発展のエネルギーに満ちている。

戦争の傷跡という影もあるけど、
その傷をみんなで埋めて日本を良い国にしていくという
気持ちを大人たちはみんなどこかでもっていて、
共感・共振している。

子供や若者達も、新しい文化の到来を告げ、
学生運動を行い、未来を勝手に背負っている。

文科系高校生達の部活動の巣窟“カルチェ・ラタン”が
男の子たちの夢の秘密基地のような感じでとても良かった。

みんなが同じ物語の中にいる。
日本にもっと物語があった時代。

「Always三丁目の夕日」と同じく、
1960年代前半、昭和の時代のある部分を
うまくクローズアップしたファンタジーだと思う。

橋本治が、文明と環境とのバランスが取れていた
この時代、少し不便だけど希望のある1960年前半に、
日本を戻すことを本で提案していたけど、
映画を観ていて、そのことが、なにかわかる気がした。

ストーリーよりも、映画の世界の空気感、
色や風や話し声、物音、景色が記憶にずっと残りそうな、
そんな映画だった。

個人商店ばかりの繁華街の景色、
カルチェ・ラタン、
海の近くの家。
そんな町に、いつか住みたいな。