最近読んで心に残ったドリアン助川さんの小説「あん」
食べ物屋さんの話だということと、「生きる意味」とか「現代の名作」という言葉に惹かれて読んでみました。
出版社の紹介文引用。
誰にも生まれてきた意味がある。
甘いの香りに誘われて、
いつしか人生の深いところへと連れて行かれました。―――俵万智
どら焼き店の軒先から始まる、限りなく優しい魂の物語
線路沿いから一本路地を抜けたところにある小さなどら焼き店。
千太郎が日がな一日鉄板に向かう店先に、
バイトの求人をみてやってきたのは
70歳を過ぎた手の不自由な女性・吉井徳江だった。
徳江のつくる「あん」の旨さに舌をまく千太郎は、
彼女を雇い、店は繁盛しはじめるのだが……。
偏見のなかに人生を閉じ込められた徳江、
生きる気力を失いかけていた千太郎、
ふたりはそれぞれに新しい人生に向かって歩き始める――。
生命の不思議な美しさに息をのむラストシーン、
いつまでも胸を去らない魂の物語。
主人公が徳江さんに教えてもらいながらどら焼きに入れる「あん」を手作りしていくシーン。
あんをよく観察することが「あんの声を聞く」と表現されていた。
料理だけでなく、春夏秋冬の中、変化していくすべてのものをよく観察することが大事だということが物語の中、徳江さんを通して語られていく。
「世の中の役に立つ」とはどういうことなのか。
世の中の役に立っていない人は、生きている意味がないのか?
この問いの持つ力に、読了後も考えさせられ続けた。
私やあなた、彼や彼女がいて、それぞれが感じるだけ世界は複数存在する。
私に出会い、私のことを感じる人がいるだけ「私が生きている意味」が増える。
私たちは、この世にいるだけで「その人が生きている意味」を他者に与えている。
世の中の役に立とうと思わなくてもいい。
耳をすませ「感じて、動く」だけで静かな水面に落ちた水滴のように人生の意味の波紋は広がっていく。
ポエムのようになってしまったけど、このイメージが伝わるだろうか。
ぼくはこのようにこの小説を読んで感じた。
参考:
ドリアン助川さんの本を他にもいろいろ読んでみたいと思った。